2025.05.16

ZINEを探していたら、不思議な本屋にたどり着いた

Airi Watanabe

カンボジアで見つけた本と文化のかたち

日本では、zine(ジン)と呼ばれる小冊子の人気が、若い世代を中心にじわじわと広がっています。では、カンボジアにはzineのような文化があるのだろうか。

そんな興味から、本屋さんをのぞいてみることにしました。

(※zine(ジン)とは、個人や小さなグループが自由につくる小冊子のこと。)

屋台やバイクが行き交うカンボジアの街並みでひときわ目を引いたのは、白くて大きな、少し不思議な色づかいの建物。近づいてみると、そこは「Monument Books」という、洋書がずらりと並ぶ本屋さんでした。

Monument Booksへ

カンボジア国内にいくつか店舗がある中でも、今回訪れたのはプノンペン中心部にある大型店舗。観光客だけでなく、地元の人もふらりと立ち寄っている様子が印象的でした。

中に入ると、涼しくて静かな空間に、厚みのある本が整然と並んでいます。

子ども向けの本は、表紙にラメがきらめいていて、思わず手に取りたくなる華やかさ。

ページをめくってみると、線画のイラストが印象的な漫画や、日記のようなレイアウトの本もあり、それぞれに個性が光っていました。

(せっかくなので1冊買って帰ろう!と思ったのですが、1冊あたり8〜12ドル。日本円に換算すると約1,150〜1,870円ほど。「東南アジア=物価が安い」というイメージがあっただけに、ちょっと意外なお値段でした。旅先価格とはいえ、慎重に選びたくなるお値段でした!)

カンボジアでは公用語はクメール語ですが、都市部では英語も広く使われています。そのため、こうした洋書の本屋も、地元の人にとって身近な存在なのかもしれません。

カンボジアの本屋さんには英語の本ばかり?

都市部の本屋さんに並ぶ洋書の多さには、教育事情や、カンボジア全体の輸入文化も関係しているようです。

今回訪れた、プノンペンにある大型書店「Monument Books」では、英語の小説や実用書、子ども向けの絵本など、さまざまなジャンルの洋書が豊富に並んでいました。

こうした背景には、カンボジアの出版事情があります。
1970年代のポル・ポト政権下では、多くの知識人や文化的資産が失われただけでなく、図書館や出版施設、教育機関までもが破壊され、書籍や文化的資料の多くが消失しました。
その影響は現在も色濃く残っており、クメール語の書籍はまだ少なく、出版業界全体も再構築の途上にあるようです。

実際に、ポル・ポト政権に関する書籍も販売されていました。


(※1970年代のポル・ポト政権については、カンボジアにある「トゥール・スレン虐殺博物館(Tuol Sleng Genocide Museum)」で、日本語の音声ガイドを利用しながら詳しく学ぶことができます。内容にはショッキングな展示も含まれますが、カンボジアの歴史を知るうえで、一度は訪れておきたい場所です。)

この輸入文化は、本に限った話ではありません。

たとえばスーパーに行けば、食品や生活雑貨の多くが輸入品。

お菓子や調味料はタイやベトナム製が多く、日本人にも馴染みのあるアイテムやお菓子のパッケージもちらほら見かけました。

国内の製造基盤がまだ発展途上ということもあり、生活に必要なモノの多くが海外から入ってきている印象です。

本そのものに注目してみると

まず私が手に取ったのは、児童書。
日本の児童書のように、少し大きめの文字で書かれている本もあれば、冒頭に登場したような日記風のものや、漫画のようなレイアウトの本もたくさん並んでいます。


時間が無限にあれば、全部読みたい──と思ってしまうほど、ページをめくるたびに表現の楽しさが広がっていました!!!

装丁は、ソフトカバー(厚紙っぽい感じ)+無線綴じの厚手の本が主流でした。

(ソフトカバーとは、いわゆる柔らかい表紙の本のこと。日本でいうところの実用書や文庫本に近い雰囲気で、軽くて持ち歩きやすいのが特徴です。

また、「無線綴じ(のり綴じ)」というのは、糸やホチキスを使わず、ページの背に接着剤を流し込んで綴じる方法のこと。ページ数が多くても、しっかりと固定されるため、洋書のように厚みのある本でも安定感があります。)

もちろん全ての本ではなく、全体的な本の印象のお話です!


ページをめくってまず気づくのは、紙の手ざわり。

日本の児童書や雑誌によく使われる、つるつると光沢のある紙ではなく、少しざらっとした質感の紙が多く使われていました。紙の色も真っ白ではなく、ややアイボリーがかった優しいトーン。

目に優しく、長時間の読書にも向いている印象です。

こうした仕様には、おそらくコスト面と実用性のバランスが関係しているのだと思います。
カンボジアでは書籍自体が輸入品であることも多く、装丁や印刷のクオリティも「使いやすさ」「印刷のしやすさ」が重視されているように感じました。


全体的にコスパ重視の装丁が多い中で、特に児童書では、箔押しではなくラメを使った表紙が多く見られました。
きらきらと光るその表紙は、子どもたちにとってまるで宝物やおもちゃのように感じられるのかもしれませんね~!!

絵本のコーナーで出会った本

2階へ上がると絵本のコーナーへ。

ちなみに私は左下の「UUGGHH!」を長く検討した結果購入しました!

この絵本は、見た目が少し変わったカタツムリが主人公で、「美しさは見る人の目に宿る」というテーマをコミカルでユーモラスに描いています。​魅力的な表現のイラストとタイポグラフィが特徴で、大人も楽しめる作品でした。

私は英語翻訳をしないで、知っている英単語と知らない単語は自分の想像に任せて読んでみました。

本当に素敵な本に出会えたと感じています!

むしろ大人だからこそ響いた部分がありました!

どの本もイラストやビジュアルが素敵で、選ぶのが難しかったです。

個人的には絵本が一番の見どころ。イラストや表現がどれも素敵で選びきれなくて、体が3体欲しいです。

本の内容をひとつひとつじっくり読んで選ぶ時間は限られているので、こういうときは直感が頼りです。

私はその方法で中身が素晴らしく、大正解でした!

お会計の際に「プラスチックバッグは入りますか?」と英語で聞いてくれたり、

レジ付近には無料の可愛い栞が置いてあるのでぜひチェックしてみてくださいね。

カンボジアにzineはあったのかな?

本の世界を通じて、思いがけず歴史やその国らしさに触れることができるのも、旅の楽しみのひとつです。


カンボジアの本屋さんでは、日本とは少しちがう実用性やコスト感覚、そして読者にとっての魅力の捉え方が、あちこちに表れていました。
紙の手ざわりや製本の方法、表紙のキラキラ具合まで、ひとつひとつにヒントが詰まっていて、もっとたくさん見たい、買いたいという気持ちで溢れました。

旅のなかで出会う本には、その国らしさがにじんでいる。
Monument Booksで過ごした時間は、本棚の見方をちょっと変えてくれるような、そんな発見にあふれていました。

ちなみに今回探していた“zine”のような小冊子には、残念ながら出会えず…。
でもだからこそ、「ないなら作っちゃうのもありかも?」なんて想像がふくらみます。
新しい文化を広める第一人者になれちゃうかも?そんな想像に、少しワクワクしてしまいました。

カンボジアなので「カンボZINE(ジン)」なんちゃって。

近々私が作るかもしれませんね!お楽しみに!

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Airi Watanabe

2001年7月、北海道旭川市生まれ。
2024年、東海大学国際文化学部デザイン文化学科を卒業

学生時代には介護施設でのアルバイト経験を活かし、職員の方と利用者さんの交流を深めるための企画やデザインに取り組んできました。コミュニケーションを支えるアイデアを形にすることを得意としています。

キャラクターデザインを中心に、「かわいい」テイストのイラストを制作。ZINEやステッカー、グラフィックTシャツなどのアイテムも手がけ、各地のクリエイターイベントに出展しています。

休日はホットヨガで心と体をあたためています。