Gear8 × ウツワニウム、9年分のバトンタッチ
札幌市中央区北3条東5丁目、岩佐ビルの1階。スケルトンから手を入れ、9年かけて育ててきたGear8のオフィスが、次の使い手を迎える。次のバトンを受け取るのは、映像制作会社・ウツワニウムの代表、道上さんだ。「引越し」でも「解約」でもなく、”バトンタッチ”という言葉を選んだのはなぜか。
空間が持つ意味、クリエイティブが宿る場所への哲学、そして2つの会社がそれぞれ描く次の10年について、Gear8代表・水野と道上さんに話を聞いた。
手狭になったのではなく、成長した。移転の背景
——Gear8がオフィス移転を決めた経緯を教えてください。
水野: もともと2017年より前は、今は取り壊された札幌駅前通合同ビルに入っていました。そこが手狭になったタイミングでこの岩佐ビルに移転してきて、ロフト部分も含めると約50坪。前のオフィスのほぼ倍の広さになりました。
ただ、8年も経つとスタッフも少しずつ増えて、またじわじわ手狭になってきたので、去年ごろから本格的に移転を検討し始めました。もう1つ、これは道上さんにも以前お話ししていたのですが、このオフィスは窓から景色が見えないんです。作業環境としては本当に快適なのですが、気分転換という意味では少し閉じた空間で。そういうリフレッシュの意味も兼ねて、場所を変えようという話になりました。
——「手放す」のではなく「バトンタッチ」という形を選んだ理由は?
水野: まず、スケルトンから作り込んだ内装の仕上がりがとても良かったので、できることならこのまま残したかった。また原状回復すると費用もそれなりにかかります。以前の半分のオフィスでも結構かかったので、単純計算で倍以上になる可能性がある。
ただそれ以上に、この空間はおかげさまでクリエイティブな環境として評価していただいていたので、同じような仕事をされているクリエイティブなチームに使っていただく方が、空間の寿命として意味があると判断しました。札幌にとってもそのほうがいいと思いましたし、ビルオーナーの岩佐ビルさんに許可をいただけたのも有り難かったです。縁があれば次の会社さんに内装ごと引き継いでいただけるような形で、というお話も出ていました。

ちょうどいい場所を、ずっと探していた
——道上さんは、このオフィスを引き継ぐことをどのように決断したのでしょうか。
道上: いくつかの理由が重なりました。うちはここ2年ほど、既存のクライアント向け映像制作以外にも、中高生と一緒に映画を作るような教育関連の事業に挑戦しています。ただ、今のオフィスは地下鉄からもJRからも徒歩15分という立地で、広さの面でも制約があります。そのためにもう1つ別のスペースを2年間借りていたのですが、スタッフが行き来するコストも馬鹿にできない。
BtoBの仕事と、もう少し幅広く一般の方とも関われる事業の両方ができる場所をずっと探していた中で、水野さんとご飯を食べているときに「うち引っ越しますよ」という話が出ました。
Gear8さんのオフィスのイメージって、スタッフが働くスペースとオープンなコラボレーションスペースが共存している感じがあったので、「これはもしかして今の自分たちの規模とやりたいことにぴったりかもしれない」というのが大きかったです。
あともう1つ、今のオフィスに10年近くいて、正直少し飽きてきた(笑)。場所の変化って、意外と組織の空気感やスタッフ間の関係性に作用すると思っていて、心機一転というか、気分転換の意味もありました。それに、来年でウツワニウムが10年目なので、新しいオフィスとウェブサイトのリニューアルで10周年を迎えられたらという気持ちもあって、タイミングとしても良かったです。
素材にも、思想にも、続いていく力を
水野: 正直に言うと、ウェブの業界は、自分たちが作ったものを壊して作り直すサイクルがとても早い。クライアントから「何年でリニューアルすればいいですか?」と聞かれることも多いです。技術革新のスピードが速いし、業界が成熟しきっていない部分もある。
そのサイクルの早さに、淋しさや消費されていく感覚があり、もう少し形に残るものをという気持ちがずっとありました。だからARAMAKIさんにお声がけしたのもそうですし、この岩佐ビルの内装も、長くしっかり使ってくれる方に渡したいという話を社内でも繰り返してきました。自分たちの事業でのアウトプットと、オフィスというハード面、両方でそのバランスを取っていきたいと思っています。

「ハブ」から「クリエイションの場」へ
──道上さんは、このオフィスをどのように使っていきたいですか?
道上: もちろん、スタッフが制作に集中するワークスペースとしても活用しますが、以前のオフィスが完全に「自分たちのための場所」だったのに対して、ここは外部の方をお呼びしたり、ワークショップのような催しに参加していただいたりする、「出入りのある場所」にしたいと思っています。たくさんの人がこのスペースをきっかけに関係性を築いていく——そういう場所として使いたいですね。
まだ想像段階ですが、打ち合わせスペースとして使われていたエリアをスタッフが日常的に働くオフィスとして使いながら、奥のスペースは企画やコラボレーションができる開いた場所にしたいと考えています。ロフト部分は集中して作業できる空間として最適だと思っていて、しっかりしたモニターを置いて、クライアントと一緒に編集できるような小さなルームにできたら理想的です。
大きく分けると、「集中して没頭できる場所」「スタッフが業務に向き合うスペース」「外部の人とコラボレーションする場所」の3つを意識しながら変化を加えていく予定です。

成長する会社の条件と、物理的な場所の意味
——お互いの会社への印象を聞かせてください。
水野: 道上さんの第一印象は……めちゃくちゃ若いな、と(笑)。ただ、今っぽい若さはあまりなくて、とても落ち着いた人だという印象でした。映像技術というよりストーリーや映像設計に対して、すごく純粋な関心がある方なんだなと思いました。コミュニケーションは静かで落ち着いているのに、映像のストーリー性を考えるときには熱がある。そのギャップが好きです。
仕事の面では、「できません」と言われたことが一度もなくて。「このやり方ならできます」という返し方が毎回心地よいし、実際そっちの方が良かったりする。ディレクションの才能が高くて、映像の表現も抜群。仕上がりのエッジの効いた感じと、やり取りの心地よさのギャップが、とても好きです。
道上: Gear8さんは、自分の身近な中では本当に数少ない「成長し続けている会社」という印象です。実は会社を始めた頃に別の方から「水野さんの会社を参考にするといい」と言われたことがあって。その方が言っていたのは、人を育てて任せる、若いスタッフでもどんどん現場に出して経験を積ませる、失敗したら社長が出てくる——というスタイルが、会社を成長させる方法だということでした。
当時はちょっと怖い会社のイメージがあったんですよ(笑)。ウェブサイトもゴリゴリでキレキレで、話しかけにくい感じがしていました。でもいざお会いしてみると、本当にお話ししやすくて皆さん柔らかい。それがクライアントとのコミュニケーション設計がうまくできている証拠なのだろうと感じます。うちのメンバーも毎回Gear8さんのWorksをチェックしていますし、ある意味ロールモデルとして見させていただいています。
次の10年と、場所の意味
水野: 新しいオフィスはアルバビルで、今の岩佐ビルの約2倍、90坪近くになります。広くなる分、若手クリエイターにギャラリーとして使ってもらえる場所にしたいというのが1つ。社内外問わず、まだこれからという人たちの作品やクリエイティブの発表の場として開いていけたらと思っています。
もう1つは、仕事以外でも会社に来る理由を作ること。同じ趣味ややりたいことを持ったスタッフ同士が自然に集まれる場所にしたい。今はリモートで仕事は十分できるからこそ、わざわざ来る理由を場所として作っていく必要があると思っています。「働く場所」というより「過ごす場所」という感覚で、うまく活用していきたいですね。
会社全体でいうと、今年の9月からベトナムの市場調査を始める予定で、来年にはベトナム拠点を立ち上げたいと動いています。
道上: BtoBの映像・マーケティング支援は継続しつつ、教育関連の事業を「合間にやっています」ではなく、会社の柱として成立させたいと思っています。
もう1つは長期的な目標として、自分たちのIPを作って育てていきたいと考えています。自分たちが全権利を持った映像作品を作ることもそうですし、自社プロダクトやサービスを展開していくこともそう。依頼された仕事だけでなく、自分たちの企画・発想から生み出すものをちゃんと育てていきたい。この3本柱を、この新しいオフィスから次の10年で実現させていきたいと思っています。

機嫌のいい空間を、縁ごと次へ
——最後に、このバトンタッチを一言で表現するとしたら?
水野: 「機嫌のいい空間を渡した」——でしょうか。社内でよく「機嫌のいい会社にしよう」と言っているのですが、社内の心地よさや関係性の良さって、気づかぬうちに外に漏れ出して、クライアントや関わる人への印象につながっていくと思っています。このオフィスにはそういう空気があるから、機嫌のいい空間ごとバトンタッチできたと感じています。
道上: 「縁を継ぐ」——ですかね。Gear8さんがこの場所から事業を撤退するわけでも、縮小するわけでもない。成長して次のステージに行かれるところに入らせていただく、という縁。そして、Gear8さんという素敵な会社が積み上げてきた縁や運みたいなものが、この空間にふんわりと残っている気がします。それを私たちがお預かりして、次につないでいく。そういうイメージがこのバトンタッチに一番近いと思いました。
Gear8は2026年5月、アルバビルへ移転。
岩佐ビルの1階には、ウツワニウムが入居する。
9年分の仕事と空気を引き継ぎながら、それぞれの次の10年が始まる。
道上さん、ありがとうございました!
株式会社ウツワニウム
UTSUWANIUM inc
https://utsuwanium.jp/




